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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)158号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由(1)について判断する。

1 本件発明出願当時の装飾片に関する技術常識について

(1) 成立に争いのない甲第一一号証(特公昭三七―一四八二八号特許出願公告公報)によれば、同号証には、任意の模様を有する真珠色合成樹脂素材の製法において、「魚鱗箔或は合成箔等の箔顔料を含む合成樹脂液」(同号証(1)頁左欄一七、一八行)を用いること、(2)成立に争いのない甲第一二号証(昭和四二年実用新案出願公告第二三六〇号公報)によれば、同号証には、装飾合成樹脂板において、その面上に形成する薄層にガラス又は合成樹脂等の一〇〇メツシユ以下程度の微粉粒を用い、及び右薄層上に塗着する樹脂として三二メツシユ程度以上の細粒を含む液状合成樹脂を用いること、(3)成立に争いのない甲第一三号証(特公昭四九―二九二九九号特許出願公告公報)によれば、同号証には、無機質充填材を用い複雑形状のエポキシ樹脂注型品を製造する方法において、「無機質充填材としては、ガラス、石英、マイカ、アルミナ、ジルコン、シリコンカーバイトなどの粉末、粒子、短繊維などが、いずれも使用可能である」(同号証(1)頁二欄三〇行ないし三三行)こと、(4)成立に争いのない甲第一六号証(特公昭四九―三三六号特許出願公告公報)によれば、同号証には、化粧板につき深みのある色彩模様を有する化粧表面の形成法において、「配列されたまま固定された天然又は合成パール箔をその表面に含む合成樹脂板状体を粗粉砕してパール光沢を有する平均粒径一~一〇mmの砕片」(同号証特許請求の範囲)としたものを用いること、(5)成立に争いのない甲第一七号証(特開昭五〇―六七八六二号特許出願公開公報)によれば、同号証には、金属感を有する熱硬化性樹脂成形法により成形可能な外装ケースにおいて、「金属粉は、アルミニウム粉、銅粉、黄銅粉、青銅粉等を使用し……その粒度は平均粒子径〇・五mm以下好ましくは〇・〇七mm以下が適している」(同号証(3)頁左上欄一三行ないし一五行)こと、更に、「配合する金属粉末の種類、粒度、配合比等により種々の色、光沢を有する外装ケースが得られる」(同号証(4)頁左上欄一五行ないし一七行)ことがそれぞれ記載されていることが認められる。右事実によれば、金属粉、合成樹脂粉体等が、合成樹脂成形品の模様形成のための装飾片としてごく普通に用いられているものということができ、装飾片としての各種粒子の大きさ及び形状の金属粉、合成樹脂粉体が用いられることは、本件発明出願当時当該技術分野における技術常識であつたと認められる。

2 本件発明について

成立に争いのない甲第四号証(本件明細書)によれば、本件発明は、金属表面に施すプラスチツク化粧仕上げ方法に関するもので、前記当事者間に争いのない本件発明の要旨記載の構成により、美観のあるチラシ模様を形成するものであること、装飾片として本件審決挙示の「肉眼で識別できる程度の大きさ」(構成<1>)で、「大きさ及び重量が不均一」(構成<2>)で、「形状が不揃いで多角形状」(構成<3>)の合成樹脂、金属、貝類等の着色粒状物を用いること、この着色粒状物について、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、構成<1>について「粒状物の一単位は少なくとも一片が一mm以下である必要があり、好ましくは〇・五mm~〇・一mmの寸法で肉眼により各粒状物の存在が認識しうる程度のもの」(甲第四号証二欄三五行ないし三欄一行)と記載されているのみで、構成<2>、<3>について何ら具体的記載がないこと、装飾片の形状等と模様との関係について、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、「多角形状の着色粒状物が適度に分散して点在するので、光の具合により種々のハレーシヨンが発生し、かつ隣接する粒状物が等間隔で整列したり互いに密接したりしないので変化性のあるまだら状のチラシ模様が現出する。さらに本発明は細かいチラシ模様を得ることが特徴であるから、粒状物の一単位は少なくとも一片が一mm以下である必要があり、好ましくは〇・五mm~〇・一mm程度の寸法で肉眼により各粒状物の存在が認識しうる程度のものでなければならない。またこの粒状物は大きさ及び重量を不均一にするものであるから、各粒状物は重量差に応じてプラスチツク化粧板内で上下に分離し、大きさの差により粒状物の点在効果が向上し深みのあるまだら状のチラシ模様が得られる」(同号証二欄二八行ないし三欄六行)と記載されていることがそれぞれ認められる。

3 第一引用発明について

成立に争いのない甲第二号証(特開昭五四―二一四五八号特許出願公開公報)によれば、第一引用例には、プラスチツク化粧板の製法において、「エポキシ樹脂を主材として、これに顔料、硬化剤及びアルミニウムの如き金属粉または合成樹脂粉体を混練してなる塗料」(同号証(1)頁右欄一行ないし三行)を用いること、「金属粉など粉体がプラスチツク組成物内に分散硬化し美しい模様を形成する。なおこの模様は混入粉体の性質、形状、量などによつて無数多様的なものとなる効果がある。」(同号証(1)頁右欄六行ないし九行)と記載されていることが認められる。右事実によれば、第一引用発明において用いられる金属粉等は、前叙のことから明らかなように、第一引用発明出願当時において技術常識であつたと認められる従来装飾片として用いられている金属粉、合成樹脂粉体等の範ちゆうのものと認めることができる。

4 本件発明のいわゆる進歩性について

第一引用例に、「模様は混入粉体の性質、形状、量などによつて無数多様的なものとなる効果がある。」との記載があることは前叙のとおりである。右事実は、種々の粉体が用いられ得ることを示唆しているものではあるが、本件発明の構成<1>ないし<3>を示唆しているものではなく、この点につき同旨の本件審決の認定に誤りはない。しかしながら、前叙のとおり本件明細書には、構成<1>について「粒状物の一単位は少なくとも一片が一mm以下、好ましくは〇・五mm~〇・一mmの寸法」との記載があるのみで、構成<2>、<3>について何ら具体的記載がないこと、既に第一引用発明出願当時、化粧板製造に使用する粉体(金属粉、合成樹脂粉)の一般的な製法は、それぞれ固体を粉砕して作るのが通常であり、そして固体を粉砕して粒状物(後記のとおり本件発明のものは粉体に含まれる。)を形成すれば、形状が不揃いの多角形状で、大きさ及び重量も不均一となることは被告の自認するところであること、を総合すると、本件発明の構成<1>ないし<3>の構成からなる金属粉、合成樹脂粉等の装飾片は、本件発明出願当時において既に従来装飾片として用いられていた金属粉、合成樹脂粉体の範ちゆうのものに他ならないと認められる。被告は、一般に装飾片の製法は粉砕によるものとは限らないもので、球状粒体の装飾片も存在する旨主張するが、右主張は、後記「粉体(粉末)」に属する大きさをもつ球状粒体の装飾片が本件発明出願当時存在したことを認めるに足りる証拠はないので、採用の限りでない。また、被告は、第一引用例(1)頁右欄九行ないし一一行の記載を根拠に、第一引用発明の粉体は極めて小さなもので直径数十ミクロン以下であり、第一引用発明の粉体と本件発明の装飾片の大きさは異なる旨主張するところ、前掲甲第二号証によれば、第一引用例(1)頁右欄九行ないし一一行に被告指摘の記載があるとは認められるものの、第一引用例の被告指摘の右記載から第一引用発明の粉体の直径が数十ミクロン以下であると即断することはできず、かえつて、成立に争いのない甲第八ないし第一〇号証の各一ないし三によれば、一般に、「粉体(粉末)」は、一〇〇〇ミクロン(一mm)以下の粒子の集合体をいい、これを「粉体」なる技術用語をもつて表すものであること及びこの事実は、本件発明出願当時当業技術者の技術常識であつたことが認められる(甲第八号証の二中の「粉末ゴム」の項の被告指摘の記載及び甲第一〇号証の二中の「一~一〇〇μを通常の粉体」との被告指摘の記載はいずれも右認定を左右するものではない。)ところ、本件発明の粒状物の大きさは少なくとも一片が一mm以下で、好ましくは〇・五mmないし〇・一mm程度の寸法であることは前叙のとおりであるから、本件発明の粒状物は「粉体」の概念に含まれるものであり、更に、前叙の、第一引用発明において用いられる金属粉等は従来装飾片として用いられている金属粉、合成樹脂粉体等の範ちゆうのものであること前記のとおりであることを考慮すると、本件発明の粒状物は第一引用発明の「粉体」に含まれると認められる。また、被告は、第一引用例(1)頁右欄五行ないし九行の記載を根拠に、第一引用発明の「無数多様的な模様」と本件発明の「チラシ模様」とは異なり、本件発明の模様は第一引用発明の模様に含まれない旨主張するところ、前掲甲第二号証によれば、第一引用例(1)頁右欄五行ないし九行に被告指摘の記載があることは認められるが、右事実から第一引用発明の模様が本件発明の「チラシ模様」とは異なると即断することはできず、また、本件発明による化粧面見本写真及び甲第二号証の発明(第一引用発明)による化粧面見本写真であることが当事者間に争いのない乙第一号証は、第一引用発明によるものの装飾片の大きさが明らかでないから、同号証をもつて被告の前記主張を肯認するに由なく、他に、本件発明の模様が第一引用発明の模様に含まれないことを認めるに足りる証拠はないから、被告の前記主張は採用できない。

したがつて、本件発明の装飾片は、所望とする模様との関係で従来用いられている装飾片の中から構成<1>のものを選定したにすぎないということができる。

そして、本件発明における装飾片の形状等と模様との関係についての前記認定事実によれば、本件審決が、本件発明において構成<1>ないし構成<3>の条件をみたす装飾片を選択使用することによつて奏される特段の効果と認定した「まだら状の深みのあるチラシ模様」なるもののうち構成<1>を選択したことによる効果は「チラシ模様」であり、それは、取りも直さず各粒状物の存在が肉眼により認識し得るからであることが認められ、そうであれば、「チラシ模様」を得る目的で種々の大きさの装飾片の中から構成<1>の大きさのものを選定することは、当業技術者であれば容易に想到できたものといわなければならず、そのように想到したものは、本件発明において奏する前記効果と同じ効果を奏するものと認められる。

被告は、本件発明のチラシ模様は、単にエポキシ樹脂中に装飾片を混入させるだけでなく、真空脱泡を用い、温度条件により粘性を調節し、装飾片として特定のものを選定したことにより実現できたものである旨主張するところ、前掲甲第四号証によれば、本件発明においては、「四〇℃以下の温度下で真空脱泡せしめ」るものであることが認められるのに対し、前掲甲第二号証によれば、引用発明においては「二〇℃以下の低温で真空脱泡する」ものであることが認められるが、本件発明の「四〇℃以下」の温度条件には引用発明の「二〇℃以下」の温度条件も含まれることは明らかであり、かつ本件発明において真空脱泡の温度条件を「四〇℃以下」に限定した理由も本件明細書(前掲甲第四号証)によるも明らかではないので、本件発明の右温度限定に技術的意味を認めることができない。してみると、真空脱泡の温度条件について、本件発明と引用発明との間に実質的差異は認めることはできないので、本件発明における右温度条件下の真空脱泡と本件発明のチラシ模様との間に被告主張のような技術的意味を認めることはできない。

してみると、本件審決が、構成<1>ないし構成<3>を本件発明の装飾片についての必須の要件とし、その故に本件発明が本件審決認定の特段の作用効果を奏しえたというべく、本件発明をもつて容易に発明をすることができたものとすることはできないとして、いわゆる進歩性を肯定した本件審決の認定判断は誤りといわなければならず、本件審決は違法として取消を免れない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由があるのでこれを認容することとする。

〔編注〕本件発明の要旨は左のとおりである。

金属製品の塗装面を彫刻機などで削設して枠部1付きの凹状部に形成し、該塗装面に砂、エメリー鋼などを吹付けて粗面となし、エポキシ樹脂を主材とする粘液状塗料内に肉眼で識別しうる程度の大きさで、大きさ及び重量が不均一の合成樹脂、金属、貝類等の着色多角形粒状物2を多数混入し、該粘液状塗料を前記塗装面にやや膨隆状に盛り上るよう塗布し、四〇℃以下の温度下で真空脱泡せしめ自然乾燥した後五〇℃乃至一二〇℃の熱を加えて塗料により形成されたプラスチツク化粧板3の後硬化を行ない、後硬化完了後金属製品の枠部表面とプラスチツク化粧板を段差のない滑面に研削し、ついでツヤ出し及びメツキ処理を行うことを特徴とする金属表面に施すプラスチツク化粧仕上げ方法。

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